新人の経験学習、中堅の経験学習

中島久樹モニカ株式会社代表取締役 CLO

経験学習理論によると、人が行う学習のうち研修や他者からのアドバイスによるものたった30%、大部分を占める残り70%は自らの経験によるものと言われています(1)。それほど大切な経験学習ですが、学習の材料となる「経験」は年代によって適切なものがあるようです。今回は経験学習の要である「経験」について実践から見えたきたことをご紹介します。

経験学習ってなんだっけ

それでは、まず経験学習理論について簡単に見てみましょう。経験学習理論はアメリカの教育学者、コルブによって提唱された、近年主流となっている学習理論です(2)。その名の通り「学習」は「経験」から生じるというもので、コルブは経験学習サイクルという考え方で、そのステップをわかりやすく提唱しています。

デービッド・コルブの経験学習サイクル

なるほど、見れば確かにそうだよなーと納得できるサイクルですよね。経験をして、その経験について考えて、なるほど!と気づきを得て、次の行動に活用する。わかりやすいサイクルです。

新人にとっての「経験」とは

そんな経験学習ですが、先日、ある会社の新入社員の方(以後Aさん)と話をしていて、図の起点となる「経験」は、タイミングにより異なってくるんだろうなーということを思いました。

Aさんと話していたのは「最近成長したのはどんなこと?」というテーマの話。いくつかエピソードや考えを話してくれたのですが、中でも中心的な話題になっていたのは「動画サイトから大きな学びを得ている」ことでした。Aさんの会社では新入社員教育の一貫として、マイクロラーニングを取り入れていました。マイクロラーニングとは比較的短い時間で実施できるeラーニングコンテンツのことですが、Aさんは業務の合間にいろんなビジネス動画を見て勉強していたそうです。

当時のAさんは入社4ヶ月程度。現場に配属されて、OJTが始まった時期だったのですが、話を通して出てくる内容は、実際の業務でというよりは、マイクロラーニングの動画コンテンツを見ての内容でした。動画内の講師が話していることに感銘を受けて、いざ自分も仕事で実践してみると、思ったより気づきが多かった!これはいいぞ!と思ったのが、Aさんにとっての「最近成長したこと」だったのです。

なるほど、若い時ってそうだよねーと思いながら自分のことを振り返ってみると、僕自身も確かに若い頃はビジネス書を読んで行動に移していたことが多かったと思うんですよね。僕らにとってのビジネス書が、今の若手にとっては動画になっているだけで、起きている構造は一緒だったのです。若い頃は、仕事に対する考え方とか、何が正しいのか、正しくないのか、というのはあまりわからないのです。入ってくる情報が全て新しくて、とにかく覚えて、やってみる!というのが入社1年目の実情でしょう。

先に述べたように、経験学習では学びの70%は「自身の経験(直接経験)」、30%が「映像や研修や他者の教えからの学び(間接経験)」という研究結果もあるのですが、若手の状態では30%にあたる「研修や他者の教え」の方がスッと染み込むのでしょう(ただし近年では、人は物語やフィクションのような間接経験であっても、自分の経験かのように共感的に触れられることを指摘する研究も出てきています:3)。そう考えると、近年コーチングも随分広まってきて、若手育成の際に「上司からは意見や考え方を教えない!答えはすべて若手が持っているから!」という育成方針も見かけますが、Aさんのマイクロラーニングの事例のように、場合によっては上司が自分の意見や考え方を教える(ティーチングする)ことも大切だと思います。

若手が自分の経験のみで学習しようとすると、その経験をどう解釈したらいいのかがわからないわけで、研修や他者の教えから学んだことがあってこそ、自分の経験を解釈することができるようになるわけです。

中堅は自身の経験から学ぶ:ポイントは「問い」

もちろん、いつまでも「研修や他者の教え」を土台にしていは学びが深まりません。ある程度仕事ができるようなったら、学びの70%を占める「自身の経験」から学ぶことが重要です。研修や他者からの教えは、ある意味一般化された教えです。初心者を脱するには有用ですが、中堅以降は自分の経験を自分なりの視点で解釈(リフレクション)し、そこからオリジナルの学びを取り出す必要がでてきます。

この記事での詳細は省きますが、自身の経験から学びを取り出す際のポイントは「問い」です。

自身の経験は、何もしないとただの経験のままです。「経験」に「問い」を加えることで、「経験」は「学び」に変換されます。

経験から学びを得るには、問いがポイント。

たとえば、日常の仕事が思いがけず上手くいった!というような場面で次のように考えてみてください。

  • どんな準備をしていたから、これが上手くいったのだろう?
  • 流れが変わったのは、何がキッカケだっただろう?
  • 次はどうしたら更に上手く進むだろう?

経験学習サイクルのコツは「問い」をどれだけ良質にできるかです。

少し大きな話になりますが、一般化された学びは、もはやAIが担ってくれる時代です。私達は一人ひとりが一般化されたことだけではなく、自分だからこそ出来る!という職能を身につける必要があります。経験学習は誰にでも普遍的に必要な学習サイクルであり、意識して身につけるべきスキルだと考えています。

若手の皆様は、ぜひ研修や他者からの「学びを教えてもらう」ことを大切にしてください。中堅以降の皆様は自身の経験に効果的な問いを加えて、「学びをつくりだす」を練習をしてみてください。経験学習ができるようになると、毎日の仕事がもっと楽しくなるはずです。

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